美容医療の適切な実施に関する検討会報告書と令和7年8月の厚生労働省通知を一次情報として、医療機関の立入検査で確認されうる記録の考え方と、日常業務における記録整備の実務を整理した記事。
- 美容医療の適切な実施に関する検討会 報告書では、立入検査の可否・法的根拠・実施プロセス・調査の観点の明確化を行うべきとされていました。
- 令和7年8月の厚生労働省通知(医政発0815第21号)は、その解釈を明確化するものと私たちは読んでいます。通知自体が「明確化」と自称しているわけではないため、これは読み取りです。
- 検査の場で口頭で説明できても、記録が残っていなければ裏づけになりません。
- 記録は検査対応のためだけのものではなく、担当者が入れ替わっても同じ品質で回すための基盤でもあります。
立入検査は、医療法に基づく行政の権限として従来から存在します。新しく作られた制度ではありません。変わりつつあるのは、美容医療の分野で、その運用がどこまで踏み込まれるかという点です。
この記事では、公開情報をもとに「何が残っていれば説明できるか」という観点から整理します。個別の運用が適法であるかどうかの判断は行いません。
01検討会報告書が求めていたこと
美容医療の適切な実施に関する検討会 報告書(令和6年11月)では、厚生労働省において、医師法や保健師助産師看護師法等への違反が疑われる事例、およびそれらに対する医療法に基づく立入検査等の可否・法的根拠、立入検査の実施プロセス、調査の観点について明確化を行い、解釈通知の発出等を行うべきであるとされていました。
ここで注目したいのは、「調査の観点」まで明確化の対象に含まれている点です。何を見るかが整理されるということは、見られる側にとっては備えるべき対象が明確になるということでもあります。
そして令和7年8月、実際に解釈通知(医政発0815第21号)が発出されました。報告書が示した流れが、実行段階に入っていると理解できます。
02記録がないと、何が起きるか
検査の場面を想定すると、構造は単純です。質問に対して、記録で答えられるか。それだけです。
- 説明はしている / 何をいつ説明したかの記録がない
- 医師が判断している / どこで判断したかが残っていない
- 同意は取っている / 同意の時点と内容が特定できない
- 手順は決まっている / 文書化されておらず、担当者ごとに違う
左側は事実かもしれません。しかし検査で問われるのは、それを客観的に確認できるかです。記録がない場合、「していない」と評価されるリスクを否定できません。
これはカウンセリングという工程の性質とも関係します。カウンセリングは、終わった瞬間に消えます。手術記録や処方と違い、意識して残さなければ何も残りません。あとから見えなくなる工程ほど、記録の設計が要るということです。
03残しておく対象を分けて考える
記録といっても、性質の違うものが混在します。混ぜて管理すると、どれも中途半端になります。
| 区分 | 残す対象 | 目的 |
|---|---|---|
| 体制 | 役割分担、業務範囲の定義、手順書 | 誰が何を決めるかを示す |
| 個別 | 説明した内容、同意の時点、医師の判断 | 個々の事案を再現する |
| 教育 | 研修の実施記録、周知の履歴 | 体制が運用されていることを示す |
| 是正 | 問題が起きた際の対応履歴 | 把握と改善の経過を示す |
体制の記録が土台になる
個別の記録がいくら精緻でも、そもそも誰が何を決める体制なのかが文書化されていなければ、個々の記録の意味を説明できません。順序としては体制が先です。
教育記録は見落とされやすい
手順書があっても、それが周知され、担当者が理解している状態でなければ運用されているとは言えません。研修や周知の記録は、体制が絵に描いた餅でないことを示す材料になります。
04記録は、検査対応のためだけではない
ここまで検査を軸に書いてきましたが、記録の本来の価値は別のところにあります。
担当者が入れ替わっても、同じ品質で回せることです。説明の範囲が文書化され、判断の分岐が定義され、実際のやりとりが残っている状態は、そのまま教育の教材になります。属人化していた工程が、引き継げるものに変わります。
成約率の議論も同じ構造を持っています。できる人の勘を仕組みに変えるで扱ったように、記録がなければ何が効いたのかを検証できません。コンプライアンスのための記録と、改善のための記録は、多くの部分で重なります。
この観点に立つと、記録の整備は「守りのコスト」ではなく、業務の基盤づくりとして位置づけられます。
—まとめ
記録は、あとから作れません。いま何が残っていないかを確認するところから始めるのが現実的です。
※ 本記事は公開されている一次情報をもとに整理したものです。個別の事案が適法かどうかの判断は行っていません。実際の運用にあたっては、弁護士・薬事の専門家および所管の保健所にご確認ください。
立入検査は新しく作られた制度ですか?
どこまで記録すればよいのでしょうか?
紙とデータ、どちらで残すべきですか?
記録を増やすと現場の負担が増えませんか?
執筆:山本翔太(バイタリティデザイン合同会社 代表)建物の通信・ネットワーク・防犯設備をつくる、職人が動く現場を持つ事業会社に在籍しています。手順が飛ばされる理由や、あとから検証できなくなる工程がどこかを、管理する側ではなく動く側から見てきました。自由診療・美容医療については、自ら複数の施術を受けた当事者でもあります。カウンセリングで何を聞かれ、どこで迷い、何に警戒するかを、患者の側から知っています。男性ウェルネスブランド〈His Recoveries〉を運営。
型は、これで分かります。ただ、御院のどこで途切れているかは、現場を見ないと分かりません。
記録の設計を、一緒に確かめる。
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